精密触診と解剖学の学び方

精密触診と解剖学の学び方

先日開催された「精密触診と解剖学の学び方」についてお話ししたいと思います。このセミナーには約200名の受講者が参加し、理学療法士の皆様が日々直面する問題について深く学び、議論しました。

 

治療のターゲットを絞り込むことの重要性

このセミナーの主要なテーマは、痛み(特に慢性痛)、癒着、拘縮の治療における精密触診の重要性でした。私たちは、ターゲットを絞り込んだ治療法を選択するために、精密触診が必須の技術であることを強調しました。

一度ターゲットを絞り込むことを理解すると、絞り込まない状態で治療を開始することがいかに無意味なことかを理解できるようになると思います。これは、バッターが目をつぶってバットを振っているのと同じです。まずボールの軌道を見通してから振らないと、ボールは当たりません。

 

具体的なターゲットの絞り込み

この理論を具体的な症状に当てはめて考えてみましょう。例えば、膝痛、膝前面痛、膝蓋腱炎、膝蓋腱内側炎の痛み、脂肪体と膝蓋腱内側背側の癒着の痛みなど、病態を徐々に拡大して見つめることが重要となります。

膝痛や膝前面痛、もしくは膝蓋腱炎のままで治療を開始しても、患部に起こっている問題を解決できるはずがないのです。

 

エビデンスに基づく医療(EBM)と精密触診の兼ね合い

ここで、エビデンスベースの医療(EBM)について考えてみましょう。EBM論文において引用されるランダム化比較試験(RCT)において、患者の選択基準はどのようになっているでしょうか? 

どれだけ絞り込んだ研究であっても、「膝蓋腱炎」以上に拡大した選択基準は考えられません。なぜなら、症例が集まらないからです。膝蓋腱炎という緩い選択基準では、脂肪体との癒着に対して適切な介入を設定できるはずがないのです。

ここで重要なのは、運動器疾患のほとんどの症例に対して、EBM論文が引用した論文の患者選択基準の解像度では、絞り込みが不十分ということを理解することです。解像度を高めるには、今のところ精密触診しかありません。精密触診の方が100倍以上の解像度で問題を見つけていけます。

 

エコーの活用と精密触診

「でも、エコーがあるじゃないか?」という疑問もあると思います。しかし、エコー画像上で発痛源をすべて言い当てることはできますか? オスグッド病、靱帯損傷、肘内側上顆炎のような解剖学的な異常があれば見つかります。

しかし、神経や血管由来の慢性痛がある場合に、ブラインドされた評価者が臨床症状を言い当てることが出来るでしょうか? 踏み込んだ妥当性研究を行うとしても、単独の検査として感度、特異度ともに低すぎる点、また検者間の一致率が低すぎることは容易に予想されます。

現状、慢性痛や拘縮の原因を同定する上で、触診で痛みを見つけてから、エコーを補助的に使うのが正解ではないかと思います。エコー画像上に癒着や痛みを色をつけて表示できるようになるまでは。

 

精密触診は必須技術

こういう背景の元に、「精密触診は必須技術」というメッセージを発信させていただきました。人の身体に触れる医療者は、早い段階で(できれば学生のうちに)精密触診に接することを強くお奨めしたいと思います。養成校からの特別授業のご依頼も歓迎します。

以上が、私たちが理学療法士の皆様に伝えたいメッセージの全てです。この記事を通じて、精密触診の重要性とその実践への取り組みについて、より深く理解していただけたら幸いです。

理学療法士としての専門性を高めるためには、常に新しい知識を学び、技術を磨き続けることが必要です。その中で、精密触診はその一部であり、患者さん一人ひとりの症状に対して最適な治療を提供するための重要なツールとなります。

 

精密触診を習得するには

精密触診は、患者さんの痛みや不快感の原因を特定し、それに対する最適な治療法を選択するための技術です。これは、一見すると単純なことのように思えますが、実際には非常に高度な技術と深い知識が必要となります。そして、その技術と知識を習得することで、理学療法士は患者さんのQOL(Quality of Life)の向上に大きく貢献することができます。

また、精密触診は、EBM(Evidence-Based Medicine)とも密接に関連しています。EBMは、治療法の選択を科学的な証拠に基づいて行うことを目指す医療のアプローチであり、理学療法の分野でもその重要性が認識されています。しかし、EBMの解像度では、病態の絞り込みが不十分となることがあります。そのため、精密触診を用いて問題をより詳細に見つけ出すことが、より効果的な治療法の選択につながるのです。

さらに、エコーを補助的に使うことにより、触診で見つけた痛みや癒着をより具体的に把握することが可能となります。エコーは、身体の内部を視覚的に確認することができるため、触診だけでは見つけることが難しい問題も発見することができます。しかし、エコーだけでは全ての問題を見つけ出すことはできません。そのため、触診とエコーを組み合わせて使用することで、より精密な診断と治療が可能となるのです。

 

精密触診が解像度の高い治療法を提供するための基礎となる

このように、精密触診は理学療法士の皆様が患者さんに最適な治療を提供するための重要なツールです。しかし、その技術を習得するためには、深い知識と豊富な経験が必要となります。そのため、私たちは、理学療法士の皆様が早い段階で精密触診に触れ、その技術を磨くことを強く推奨します。

医療関係の養成校からの特別授業のご依頼も大歓迎です。私たちは、理学療法士の皆様がより高い専門性を持つことで、患者さんの生活の質を向上させることに貢献できると信じています。

 

最後に、この記事を読んでいただいた皆様に感謝申し上げます。理学療法士としての専門性を高めるための一助となれば幸いです。そして、私たちが発信する「精密触診は必須技術」というメッセージが、皆様の日々の臨床に役立つことを願っています。

これからも、理学療法士の皆様がより良い治療を提供できるよう、最新の情報と有益な知識を提供してまいります。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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