徒手療法は、患者の体に直接手を使って治療を行う方法です。多くの場合、筋肉、関節、軟組織を対象に行われます。しかし、この治療技術の選択には慎重さが必要です。今回は、その選択基準となる要点について深く掘り下げます。
望ましい徒手療法のとは
徒手療法の技術を選択する上で、我々は以下のような点を考慮します:
- 即時効果:治療直後の効果はどうか?
- 持続性:その効果はどの程度持続するのか?
- 即時的なダメージ:治療による直接的なダメージはあるのか?
- 長期的なダメージ:長期的な観点から見て、何か悪影響はあるのか?
- 治療効果の再現性:同じ条件下で、同じ結果が再現されるのか?
- 狙った組織の周囲に不要なダメージを与えるかどうか:例えば、筋膜をリリースしつつ、神経を潰すなど
- 患者が感じる痛みvs.患者が感じる効果:治療の不快感と効果のバランスはどうか?
- 効果の有無に関わらず、得られた結果に対して明快な説明ができるか?
- 多少改善ではなく、完治までのシナリオを構築できるか?
以上のどれか一つでも「不合格」レベルだと使用は見送ります。何故なら、極力小さな痛み・不快感で、周辺組織に即時・長期的なダメージを与えず、最大の効果が得られ、それが1週間以上持続する、というようなものが最善の選択肢となるからです。
効果が得られないときの説明
「効果が得られる例がある」と「高確率で確実に効果が得られる」では天と地ほど差があります。効果が得られなかったときに次々と治療の選択肢が存在するかどうかも重要です。
「〇〇を押したら▢▢が治った」、という例があるとして、同じことをして他の症例が治らない場合にどうしますか? 治らない理由をどのように説明して、どのように次の一手を提案するのかということが必要です。
治らないときの「自己否定」
その際、最初の説明を「自己否定」しなければなりません。しかも治療に難渋する場合は、自己否定を数十回繰り返すこともあります。治らないとき、誠実に自己否定を何度でも繰り返す覚悟がありますか?
遠隔部位との因果関係
遠隔部位をつないで因果関係を説明する場合の難しさもあります。「インソールで腰痛が治った」のような例はあるかもしれません。この場合も、その間に介在するメカニズムの連鎖があるはずで、それを漏れなく説明できなければ治らなかったときの説明ができません。
セミナー中の治療デモンストレーションなどで、遠隔部位からの治療で効果が出ないときに講師は狼狽します。自己否定した上で、治らない理由が説明できることが重要なのです。
テクニックの影響
「あるテクニックを使って悪化したことは無い」は本当ですか? 確実に癒着をリリースする技術があり、多数の癒着をリリースした結果と比較して「悪化はない」と断言できますか?
確実にリリースできないと、癒着が悪化したかどうかを判断することはできないはずです。長期的に、神経障害もしくは神経の癒着による痛みが悪化した例はひとつもありませんか?
リリースの技術のある人が3秒でリリースできるはずの癒着のリリースに10分要したら、癒着は悪化したと判断せざるを得ません。どのような手技であれ、局所の炎症を繰り返して、線維化・癒着が悪化しないはずがないのです。
結論
以上をまとめると、徒手療法の選択の上で重要なのは
- 効果の有無に関わらず、得られた結果に対して明快な説明ができるか?
- 多少改善ではなく、完治までのシナリオを構築できるか
に集約されるのではないかと思います。
徒手療法は、その適用範囲が広く、様々な症状や状況に対応可能です。しかし、その効果やリスクは、使用する手法や技術、そして患者自身の状態に大きく依存します。これらの選択基準を用いて、患者一人ひとりに最適な治療法を選択し、その効果を最大化することが重要です。